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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)141号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二、第三号証によれば、本願発明は、灯油等を販売するのに使用される給油車に関するものであつて、貨物車両の荷台に灯油等の油を入れたタンクを搭載して需要先に販売して回る場合、流量計に連動して作動するプリンターにより伝票に必要事項を印刷すると便利であるが、荷台には、タンク、ポンプ、流量計、ノズル等が設置されているためプリンターを荷台に設置することは危険であり、また、荷台にプリンターを設置しようとすると、これは複雑な構造であり、防爆構造(「防曝」は、「防爆」の誤記と認める。)とすると高価になつたり、風雨にさらされる等の問題があるとの知見に基づき、自動車の運転室内にプリンターを設け、給油系統の危険を回避し、プリンターを安価に設置し得るようにした給油車を提供することを目的とし(本願公報第一欄第八行ないL第二四行)、特許請求の範囲(本願発明の要旨)記載の構成を採用したものと認められる。

2 第一引用例に審決認定の技術内容が記載されていること、本願発明と第一引用例記載のものとの一致点、相違点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

原告は、審決は、右相違点について判断するに当たり、第二引用例記載の技術内容を誤認した結果、本願発明は第一引用例及び第二引用例の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと誤つて判断した旨主張する。

そこで、第二引用例記載の技術内容について検討すると、成立に争いのない甲第五号証によれば、第二引用例記載のものは自動車サービスステーシヨンの装置に関するものであつて、ガソリン貯蔵能力を有する原動力付移動車、調整分配ポンプ、エアコンプレツサ及びタンク、分離した室に直流電源の充電器を備えていること(第一欄第七行ないし第一〇行)、右装置において、「ガソリンポンプ40、42は、タンク37、38、39へ作動的に接続され(中略)装置10の運転室18に配置されている接地したパワーテークオフにより機械的に駆動される」(第二欄第六四行ないし第三欄第二行)ことが認められ、右記載事項にパワーテークオフの具体的構成に関する第二引用例の第三欄第二〇行ないし第六六行の記載及び別紙図面(三)FIG3及びFIG4を参酌すると、第二引用例記載のものにおけるパワーテークオフPower take-offは、原告主張のとおり、モータの駆動力をポンプに伝達するための機械的手段であつて、開閉動作を行うものでないから、パワーテークオフを「電源開閉器」とした審決の認定は誤りというべきである。また、第二引用例記載のものにおけるline73は、コンプレツサ72とエアコンプレツサタンク74とを連絡するパイプであり、電気を送るための電線ではないから、これを「電線73」とした審決の認定が誤りであることは、当事者間に争いがない。

しかしながら、前記審決の理由の要点によれば、審決は、本願発明と第一引用例記載のものとの構成上の相違点、すなわち、プリンターの設置場所が本願発明ではノズル36の近傍でなく、運転室内である点について判断するに当たり、本願発明においてプリンターを運転室内に設けた理由は、貨物車両の荷台には、タンク、ポンプ、流量計、ノズル等が設置されていて危険な場所であり、プリンターを荷台に設置しようとするとこれは複雑な構造であり、防爆構造とすると高価になつたり、風雨にさらされる等の問題があるため、自動車の運転室内にプリンターを設け、給油系統の危険を回避し、プリンターを安価に設置し得るようにした給油車を提供することにあるとの認定のもとに、第二引用例記載のものにおいても、火花の発生による危険を回避するため安全面からパワーテークオフを運転室内に設けるようにしたものであり、そうすると、給油車においてプリンターを設ける場合にプリンターが火花を発生するおそれがあることから、これを運転室内へ設置することを想起することに格別の困難はない、と判断したものであることが明らかである(なお、原告は、審決が電気スイツチは操作上その機器の近傍でもその他の場所でも任意に設けることができるから、本願発明のプリンターも運転室内に設けることは容易であると判断したのは誤りである旨主張するが、審決が第二引用例を引用した趣旨は前記のとおりであつて、電気スイツチを任意の場所に設けることができる趣旨で引用したものではない。)。

そうであれば、第二引用例記載のものにおけるパワーテークオフがモーターの駆動力をポンプに伝達するための機械的駆動手段であつて、これを電源開閉器であると認定したことが誤りであつても、本願発明においてプリンターを運転室内に設けた理由及び第二引用例記載のものにおいてパワーテークオフを運転室内に設けた理由がそれぞれ審決認定のとおりであり、前記相違点に係る構成が第二引用例の記載に基づいて容易に想到し得たものであるならば、審決の右誤りは審決の結論に影響を及ぼさない、というべきである(なお、ライン73が電気を送るための電線でないこと自体は、審決の右結論に影響を及ぼさないことは、その技術内容からみて自明である。)。

そして、本願発明においてプリンターを運転室内に設けた理由が審決認定のとおりであることは、前記1から明らかである。

そこで、第二引用例記載のものにおいて、パワーテークオフを運転室内に設けた理由について検討すると、前掲甲第五号証によれば、第二引用例には、「自動車サービスステーシヨンについて最初に考慮することは安全であり、火花sparkの危険性を低減するため、ガソリンポンプの作動に使用される各々のパワーテークオフは、運転室18内に配置されるだけでなくフレーム11へアースされており、そして運転室18は、床55、屋根56、壁52、54だけでなく、実質的に無孔の壁50により、隔室12内のガソリンポンプ回りの大気から分離される。管73及びシヤフト150、152のガスタイトシールとともに、後壁50は無孔である。後壁50を通過する金属製シヤフト150、152は、隔室12内で火花が発生するのを防止するため、運転室18内のフレーム11へ接続される。」(第四欄第五四行ないし第六五行)と記載されていることが認められるから、当業者であれば、その記載事項から、第二引用例記載のものにおいては、パワーテークオフの駆動により火花が発生し、これが装置の部品に引火することの危険を回避するため、パワーテークオフを運転室内に設けて給油タンク等から隔離したものと理解することができる。

しかも、成立に争いのない乙第一号証(昭和五一年実用新案出願公告第三〇四九号公報)によれば、本件出願当時ガソリン等の引火性の高い蒸気やガスの発生する場所において、電子プリンターを附設する必要がある場合危険場所から離れた非危険場所に設置し電気的回路によつて両者を結合することは当業者に広く知られていたことと認められる(原告は、右は給油所に関する技術であり、本願発明の給油車とは技術対象が異なる旨主張するが、両者は給油設備とこれに附設するプリンターに関する技術として共通の要素を持つものであるから、原告の右主張は理由がない。)から、本件出願当時の右技術水準を背景に、当業者が第一引用例記載のものにおいて、安全面から、プリンターをノズル36の近傍に備えることに代えて、第二引用例の記載事項に基づきこれを運転室内に設けるようにすることは容易に想到し得たことというべきである。

したがつて、第二引用例の記載事項に基づいて、給油車においてプリンターを設ける場合、プリンターが火花を発生するおそれのあることからこれを運転室内へ配置することを想起することに格別の困難はない、とした審決の判断はその結論において誤りがない。

2 原告は、審決は、第一引用例及び第二引用例の記載からは予測できない本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した旨主張する。

前掲甲第二、第三号証によれば、本願発明は前記1認定の構成を採用した結果、「プリンターは、危険のない運転室内にあるために、特殊な防爆構造とする必要がなく安価なプリンターを使用することができる。又プリンターは運転室内であるから、風雨にさらされず錆びたり故障することがなく、印字された伝票が風で飛ばされたり雨に濡らされることもない。」(本願公報第四欄第一五行ないし第二一行)、「運転席にプリンターを設けたので、プリンターへの電源がとりやすく、格別の照明装置が不要である。また雨天時での故障の対応が容易であり、かついたずらされないので、盗難防止装置等を設ける必要がない。そして天候や気温による影響がないので、耐候手段も不要となる。」(本件補正書第二頁第五行ないし第一一行)との作用効果を奏するものであると認められる。

しかしながら、右作用効果は、いずれもプリンターを運転室内に設けたことによるものであつて、第一引用例記載のものにおいて、給油系統の危険を回避する意図で、第二引用例の記載事項に基づいてプリンターを運転室内に設置するに際し、当然予測し得ることであつて、これをもつて格別のものとすることはできない。

したがつて、本願発明の奏する作用効果は、プリンターを給油装置の近傍でなく運転室内に設置したことにより当然予想される範囲内のものであつて格別のものではない、とした審決の判断に誤りはない。

3 以上のとおりであつて、本願発明と第一引用例記載のものとの相違点についての審決の認定、判断には、第二引用例記載の技術内容について一部誤認が存するものの、その結論に誤りはなく、また、本願発明の奏する作用効果についての審決の判断にも誤りはないから、本願発明は第一引用例及び第二引用例の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

荷台に油タンクを載置し、この油タンクに流量計を介してノズルを接続し、運転室内にプリンターを設け、前記流量計とプリンターを電気的若しくは機械的に連結したことを特徴とする給油車

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